水 マテリアリティ
ヤクルトのアプローチ
水は、地球上の限りある資源です。昨今、水需給の不均衡や水災害の発生等、水に関わる問題が地球規模で問題になっています。これは水を主原料とした製品を取り扱うヤクルトグループの事業活動にとって重要な課題です。ヤクルトグループでは、2021 年3 月に「ヤクルトグループ 環境ビジョン」を策定し、その中で水に関する定量目標を設定し、限りある水資源を有効利用する ため、さまざまな取り組みを実施しています。また、自社工場の水使用状況だけではなく、地域 の自然資本・政策に関する動向の定期的かつ継続的な情報収集・評価等を組み込んだ水管理計 画の策定を進め、水資源の保全および持続的利用を推進します。
貢献するSDGs
水資源の保全と水リスク対応
本社工場やボトリング会社では、水の循環利用や運用見直しなどを通じて水使用量の削減を図り、徹底した排水管理で河川への影響を最小限にとどめています。
水リスク調査を継続的に行い、リスクの高い地域においては、調査結果をもとに生産活動の見直しや対策を進めています。
2021年4月には、「環境ビジョン2050」を発表しました。「環境ビジョン2050」の達成に向けた短期的および中期的マイルストーンである「環境アクション(2021-2024)」および「環境目標2030」において、水使用量(国内乳製品工場:生産量原単位)を2024 年度末までに2018年度比3%削減、2030年度末までに2018年度比10%削減することを目指しています。
主な取り組み
水リスクの把握
持続可能な水使用のためには、各工場が位置する河川流域における水需給の見通し、水災害発生の可能性、公衆衛生、生態系への影響等の水リスクについて認識する必要があると考え、2017年から外部機関による調査を実施しています。
2020年には、ヤクルトグループの生産拠点における水ストレスレベルの高い地域を特定するために、WRI Aqueduct※1 等を用いて水リスクの評価を行っています。
その結果、水ストレスの高いエリアに位置する生産拠点※2数は全体の28%であり、該当エリアにおける取水量は2,047,922m3、総取水量に対する割合は33.2%でした(2020年度)。
※1 WRI Aqueduct:国際環境 NGO の世界資源研究所(WRI)が開発した水リスク評価ツール
※2 WRI Aqueduct によるBaseline Water Stress が「極めて高い」または「高い」に位置する生産拠点
生産拠点における水リスク評価結果(2020年度)
拠点数 | 極めて高い | 高い | |
国内 | 12 | 1 | 3 |
---|---|---|---|
海外 | 27 | 9 | 7 |
サプライヤー拠点 | 372 | 35 | 77 |
合計 | 411 | 45 | 87 |
Aqueduct水リスク評価結果(Future Projections/2040/Pessimistic)
各国・地域における取り組み
生産排水の浄化施設の設置
(中国ヤクルトグループ)
無錫工場では、中国の排水基準1級Aを満たす生産排水処理施設を設置しています。排水基準1級Aの水質は、工業用水としての再利用が認められており、無錫工場で排水された水は最終水処理場を経由して、無錫工場内の緑地で散水に利用するとともに他社の工場で活用されています。2022年度は、176,561tの排水が再利用されました。また、無錫工場においては、生活用水の浄化装置も設置し、外部排出基準を満たしたうえで排出しています。
工場における水使用量の削減
(広州ヤクルト)
広州ヤクルトの3工場では、各種検証を基にHTST(シロップ用プレート式殺菌装置)の酸洗浄頻度の見直しを行い、CIP(定置)洗浄時の水使用量削減に取り組みました。これにより、3工場合わせて年間約1,892tの水の使用量を削減できる見込みです。
Pick Up!
担当者に聞きました
水の都・無錫の人々とともに生きるために(無錫ヤクルト)
水の都・無錫の人々とともに生きるために(無錫ヤクルト)
無錫ヤクルトのある中国の太湖周辺地域では、生活水源を守るために排水の厳しい基準が設けられています。担当者が、地方行政や他企業と協力しながら中央政府の厳しい水質基準をクリアした経験を振り返ります。
中国を代表する淡水湖・太湖周辺地域の生活水源を守るために。
無錫ヤクルト乳品有限公司(以下、無錫ヤクルト)は2014年、中国で3番目に大きな淡水湖である太湖のほとりの街に設立されました。太湖と長江の水運に恵まれた無錫の歴史は古く、三国志の呉の発祥の地としても知られ、「太湖の真珠」とも呼ばれる水の都です。現代においても、太湖の水は、江蘇省南部と浙江省北部の住民の生活水源となっています。
中国で3番目に大きい淡水湖 太湖
2007年、太湖でシアノバクテリアが広い範囲で発生し、水質が大幅に汚染され、約200万人の無錫市民の生活水の供給が危機的な状況になったことがありました。それをきっかけに、日本の内閣府に相当する国務院が、太湖の水質の管理強化を指示し、地域の江蘇省政府による水質汚染防止の取り組みが加速しました。
特に窒素とリンを含む排水に対する法令の基準は厳しく、違反した企業や個人には、大きな罰金が科せられるだけでなく、逮捕される可能性もあります。一方、違法排出行為に対して、すべての企業や個人に報告義務があり、正しい報告には、政府から奨励金が出されます。乳製品を製造する無錫ヤクルトの工場では、毎日、窒素とリンを含む生産廃水が発生するため、設立当初から、こうした法令に則り、太湖の水を守るための取り組みを進めてきました。
中国で3番目に大きい淡水湖 太湖
廃水を外部に排出させない。
太湖流域の企業は、「中華人民共和国環境保護法」「中華人民共和国水質汚染防止処理法」などの法律や規制で、窒素とリンを含む廃水を工場外に排出することが禁じられています。さらに、廃水は自社で再利用することが求められています。
しかし、無錫ヤクルト1社では、生産廃水のすべてを自社で再利用することが難しいため、工業用水として再利用が認められる「国家汚水処理排出基準1級」のA基準を満たす排水処理を行い、他社工場での再利用まで含めた排水処理による法令遵守を目指すことになりました。
まず、無錫ヤクルトの工場内の施設で生産廃水を処理し、政府指定の専門水処理会社に送り再処理を施した後、最終的に他社の工場で使用します。2022年には総排水量の約7割に当たる176,561t が再利用されました。このほか、一部の処理済みの廃水は、社内において、冷却水、緑化用水、水洗トイレなどに活用されています。
また、工場内の排水口にオンラインの監視装置を設置して常に1級A基準を満たしているかどうかを確認しています。この結果は、政府の排水管理部門のホームページでも閲覧できます。
無錫工場
排水処理施設
地方行政や他企業との協力で、中央政府の排水基準1級Aを実現。
この1 級A基準を満たすための管理基準は、かなり厳しいものです。10年前、無錫ヤクルトの工場建設計画が始まった当時、地域には、高いレベルの水処理技術がある会社や施設がまだ多くはなく、基準を満たすために、地元の無錫市新呉区政府や水処理の専門会社との連携を模索しました。彼らの協力を得て、ヤクルト専用の水処理施設を設計し、太湖の水の汚染および水質の保護と改善を目的とした排水処理システムを導入できました。現在は、下記の基準を達成しています。
有害物質の排水基準(単位:mg/L) | ||||
---|---|---|---|---|
項目 | 無錫工場 周辺での基準 |
基準の出典 | (参考) 中国の一般的な基準 |
基準の出典 |
COD (化学的酸素要求量) |
≦50 | 「都市と町の汚水処理場における汚染物の排出基準」(GB/18918-2002)の1級A基準 「太湖地域都市と町の汚水処理場および主要産業における有害物質の排水限界値」(DB32/T1072-2018)に記載されている基準 |
≦500 | 「汚水総合排出基準」(GB8978-1996) に記載されている 3級基準 |
SS (浮遊物質量) |
≦10 | ≦400 | ||
NHM3-N (アンモニア態窒素) |
≦4(6) | ≦45 | 「都市と町の下水道に排出する汚水の水質基準」(GB/T31962-215)のA級基準 | |
TP (全リン) |
≦0.5 | ≦8 | ||
TN (全窒素) |
≦12(15) | ≦70 |
注:*()外の数値は水温>12℃の基準で、()内の数値は水温≦12℃の基準である。
また、無錫における排水の基準は、水質だけでなく、排水量も厳しく設定されています。2014年の設立当初は、地区の環境保護局の規定で、1日800tの排水しか許可されていませんでした。工場の規模からはギリギリの量で、2019年夏の生産ピーク時には、生産廃水は1日900tに達し、制限された量を超える日もありました。毎日の排水実際量や緊急水槽の容量をこまめにチェックして、許可された範囲内に抑えるのに苦労したことが思い出されます。第2工場の建設時に、ようやく排水量の枠を1日1,300tまで拡大することが認められ、一安心することができました。
排水の測定機械
担当者のコメント
無錫ヤクルト乳品有限公司
人事総務科
丁素珍
担当者のコメント
ヤクルトグループの一員として、中国の人々の健康で楽しい生活づくりに貢献したいです。また、地球の環境保護のために、エネルギーの再生にも積極的に取り組んでいきたいと思います。