ニュースリリース
迅速かつ高感度に菌血症の原因菌特定が可能に
~薬剤耐性菌の出現抑制に期待~
記
1.背景
癌化学療法を施行すると、白血球が減少し細菌感染の危険性が高くなります。通常、細菌感染症が疑われる場合は、血液中の細菌を培養して確定診断が行われますが、細菌の検出率は20~30%程度と低く、作業も煩雑で時間も要することから、医療現場では検査結果を得る前に経験的に抗菌薬の選択・投与を余儀なくされています。したがって、抗菌薬治療の効率化、さらには薬剤耐性菌の出現抑制につながるよう、迅速かつ高感度な細菌感染症の診断法が望まれていました。
一方、ヤクルト中央研究所(所長:澤田治司)では、糞便中の細菌を迅速・高感度に測定できる腸内フローラ自動解析システム(Yakult Intestinal Flora Scan:YIF-SCAN※)の本症例への応用を検討してきました。
2.研究内容
今回、順天堂大学ならびにヤクルト中央研究所は、共同研究により、①癌化学療法施行後に細菌感染症と診断された患児を対象に、腸内フローラ自動解析システム(YIF-SCAN)を利用して血中細菌の定量を試みたところ、末梢血 23検体のうち 16検体から細菌を検出しました(検出率69.6%)。②同時に実施された従来の血液培養検査では、23検体中 4検体からの検出に留まりました(検出率17.4%)。③YIF-SCANによる検査の所要時間は5時間以内でした(従来の血液培養法では1~7日間)。
以上のことから、細菌感染症の患児において、「YIF-SCAN」は、従来法に比べ、より高感度で迅速な血中細菌の同定・定量法であることが明らかになりました 。
3.今後の展開
今後さらに原因菌の測定対象を増やすことで、細菌感染症の早期診断と抗菌薬選択の有効な手段になることはもちろん、抗菌薬の多用が避けられることから薬剤耐性菌の出現を抑制することにつながると考えられます。
4.ヤクルト本社にとっての本研究の意義
ヤクルト中央研究所の澤田治司所長は、「当社が開発したYIF-SCANを利用し、血液中の細菌感染診断を、高感度かつ迅速に行うことが可能になったことで、より効果的な治療に貢献できると期待しています。」とコメントしています。
以 上
※「YIF(イフ)-(-)SCAN(スキャン)」について
「YIF-SCAN」は、個々の腸内細菌が持つ特徴的な遺伝子配列(RNAとDNA)を目印として細菌を選択的に定量する斬新な当社独自のヒトの腸内フローラ自動解析システムです。
この「YIF-SCAN」を使用することにより、従来のシャーレを用いた解析方法(培養法)に比べ格段に迅速・簡便・高精度な腸内フローラ解析が可能です。培養法では一人の研究員の1年分の作業が、「YIF-SCAN」を使用すれば3日で終了させることができます。
「YIF-SCAN」の主な特長
① 細菌中に、DNAの1000倍以上存在するリボソームRNAを解析対象にしていますので、DNAを解析対象とする解析方法より1000倍も検出感度が向上し、腸内フローラ中の菌数レベルが低い菌種も定量できます。
② 「YIF-SCAN」では熟練した技術は不要で、研究者による実験誤差が極めて少ないです。
③ 現在の分子生物学的分類体系に対応した遺伝子レベルでの正確な分析結果が得られます。
④ 汎用性が高く、病原菌や土壌細菌等、あらゆる微生物の定量に応用可能です。