
科学の
納豆菌とは?
大豆から納豆が作られる際の発酵に深く関わる「納豆菌」は細菌の一種です。胃酸や胆汁にも耐えることができるため、生きて腸にとどき、腸内環境をすこやかに保ちます。骨の健康をサポートし、血液の流れの改善にも効果があると言われていますが、納豆の効果はまだまだ完全に解明されておらず、わからないことも多いです。
- 監修
- 糖尿病専門医・救急科専門医・総合内科専門医・抗加齢医学専門医 福井美典 先生
「納豆菌」は学術的な
正式名称ではない
納豆を作る上で欠かせない「納豆菌」の学術名は「Bacillus subtilis var.natto(バチルス サブチリス ナットウ)と言い、「枯草菌(こそうきん:Bacillus subtilis)」の一種です。納豆に利用されるため、「納豆菌」と呼ばれて親しまれています。
納豆菌の歴史
納豆菌が使われ始めたのは古代からですが、納豆の発祥については弥生時代の住居の床に敷いてあったワラによってできた説や、源義家にゆかりがある説など諸説あるようです。
納豆菌に関する研究は1906年に沢村真博士が純粋培養したことから始まりました。
納豆菌は自然環境から取り出され、日本では多くの地方で活用されてきました。スーパーなどでよく見かける納豆は糸引き納豆と呼ばれるもので、そのほかにもひきわり納豆や、塩と麹を使った納豆などがあります。塩と麹を使う納豆は、寺納豆や塩辛納豆と呼ばれていますが納豆菌は使われていません。
納豆菌の特徴と効果
納豆菌は酸素のある環境でも発酵が可能な菌で、芽胞(がほう)と呼ばれる強い殻を形成することで過酷な環境にも耐えられる性質があります。このため、この状態であれば胃酸や胆汁にも負けず腸まで生きたままとどくことができます。腸では栄養型細胞に変化し、悪い菌を抑え、腸内環境をすこやかに保つはたらきがあります。
さらに、納豆菌は骨の形成にかかわるビタミンKや、血流の改善が期待できるとされているナットウキナーゼを作り出すため、骨や血液の健康をサポートしてくれます。

納豆の作り方
まず大豆を洗い、一昼夜水に漬け、蒸し煮にすることで、ふっくら柔らかくさせます。そして納豆菌を混ぜ込み、発酵に適した温度の状態でしばらく置くと納豆ができます。
納豆は自宅で増やすこともできます。
まず、市販の納豆を水やお湯につけて納豆菌液を作ります。次に、6時間〜24時間水につけ、3〜4時間蒸し煮にした大豆に納豆菌をかけてよく混ぜます。そして、30度ほどの温度で1日発酵させます。できあがった納豆を冷蔵庫で1日寝かせれば自家製納豆の完成です。
ヨーグルトメーカーなどを利用すると簡単にできるようです。
納豆はなぜ
おいしいの?
納豆の独特の風味は、発酵過程で作られるアミノ酸などのうまみ成分から生まれます。
納豆のネバネバはポリグルタミン酸という、昆布のうま味成分として知られるグルタミン酸がつながったもので、かき混ぜることでポリグルタミン酸がバラバラになってグルタミン酸になるため、よりおいしくなります。

納豆の仲間
インドネシア発祥の「テンペ」や、中国で調味料として使われる「豆鼓(トウチー)」は納豆と同じく、大豆を発酵させて作った発酵食品であり、納豆の仲間とも言える存在です。
ただし、テンペはテンペ菌で、豆鼓は麹や酵母で大豆を発酵させて作るため、発酵に使う菌が異なります。
納豆菌のマメ知識
納豆菌の力を水質浄化に活用する試みもあるようです。納豆のネバネバ成分であるポリグルタミン酸から作られた水質浄化剤や、枯草菌を使った水槽用の水質浄化剤が商品化されています。
その他、納豆菌の強さが分かるエピソードとして、酒造りとの相性の悪さがあります。
日本酒は麹菌の力による発酵食品ですが、酒蔵に納豆菌が入り込むと、麹菌の邪魔をしてしまいます。納豆菌は熱湯消毒などでも取り除くことができないため、酒造りとは相性が悪いのです。
そのため、日本酒を作る酒蔵では納豆菌は絶対に持ち込んではいけないものであり、日本酒を作る職人たちは納豆を食べることを控えてきました。