科学の

酪酸菌とは?

微生物食生活

酪酸菌とは、腸内で発酵を通じて酪酸を生成する細菌です。芽胞(がほう)という殻を作るので胃酸や胆汁の影響を受けにくく、生きたまま腸にとどきます。乳酸菌やビフィズス菌と共生し、腸内をすこやかに保つ良い菌の一種として注目されています。

監修
糖尿病専門医・救急科専門医・総合内科専門医・抗加齢医学専門医 福井美典 先生

酪酸菌が生み出す
「酪酸」って?

酪酸は酪酸菌が食物繊維を分解して作られる物質で、短鎖脂肪酸の一種です。

脂肪酸とは脂質を構成する物質であり、エネルギー源になったり細胞の構造を形成したりする、私たちの体に欠かせないものです。短鎖脂肪酸は脂肪酸の中でも短い構造を持つもので、酪酸や酢酸などが該当します。
食品に含まれる脂肪から直接取り入れられる中鎖脂肪酸や長鎖脂肪酸とは違い、短鎖脂肪酸は腸内細菌が食物繊維などをエサにして作られるもので、腸内をすこやかに保つ手助けをします。

酪酸菌の効果

酪酸菌が作り出す酪酸には、悪い菌の増殖を抑えたり、排便を促したり、大腸のバリアとなる分厚い粘液の層を保ったりと、腸内環境を整えるさまざまな効果があります。また、炎症やアレルギーなどを抑える免疫細胞「制御性T細胞」を増やすはたらきをすることもわかっています。

『酪酸菌の働きの一例』概念図

強い臭いを放つ
酪酸

酪酸には強い臭いがあります。銀杏のような臭いとも、うんちやおなら、雑巾のような臭いとも言われる悪臭です。

臭い食べ物として有名な中国の「臭豆腐」は納豆菌と酪酸菌によって発酵させた発酵食品です。日本の食べ物ではぬか漬けに含まれていて、ぬか床を混ぜずに放置しておくと嫌な臭いを放つようになるのは酪酸菌が増えすぎてしまうのが一因です。

酪酸菌のサプリメントなどは臭いを抑えて飲みやすくなるよう作られていますが、それでも臭いが気になる方もいるようです。

酪酸菌と
良い菌との関係

酪酸菌と他の良い菌たちはお互いに助け合う共生関係にあります。

酪酸菌は、食物繊維だけではなく、乳酸菌やビフィズス菌などの良い菌が生成する乳酸や酢酸を原料として酪酸を作り出すことができます。酪酸は大腸の中にある酸素を消費することで、酸素が苦手な乳酸菌やビフィズス菌が腸内ではたらきやすい環境を作ってくれます。

『酪酸菌と他の菌との共生関係』概念図

酪酸菌を増やす
食べ物とは

酪酸菌を含む食品は少なく、日本の食べ物だとぬか漬けに限られてしまうようです。腸内の酪酸菌自体を増やすにはサプリメントなどで摂取するのが手軽ですが、酪酸菌が好きな食品を積極的に摂ることで、腸内にいる酪酸菌が活動しやすい環境を作ることができます。

酪酸菌が好きなものは腸内で発酵しやすい発酵性食物繊維です。発酵性食物繊維にはβグルカンやペクチン、イヌリンや難消化性オリゴ糖といった水溶性食物繊維や、アラビノキシランやレジスタントスターチ(難消化性でんぷん)といった一部の不溶性食物繊維が該当します。海藻類や玄米、大麦、フルーツなどから摂取することができます。また、共生関係にある乳酸菌やビフィズス菌を含む食べ物も積極的に摂るといいでしょう。

また、運動によって酪酸菌が増えるという研究結果もあります。

ケトン体が酪酸菌を
活性化する

ケトン体とは主に脂肪が分解される際に肝臓で作られるエネルギー物質のことですが、このケトン体が酪酸菌の代謝を活性化し、腸内フローラのバランスを保つことがわかっています。
ケトン体を利用して腸内環境を改善するプレバイオティクスが近年注目されており、これを「ケトバイオティクス」と言います。

酪酸菌を摂りすぎると
どうなるの?

腸内で酪酸の濃度が高くなりすぎると、腸のバリア機能が壊れてしまう可能性がある、という研究があるため、酪酸菌ばかりを過剰に摂取するのには注意が必要です。

酪酸菌だけでなく乳酸菌やビフィズス菌など、他の良い菌もバランス良く共生する腸内フローラに整えることが重要です。

便秘やおならへの
影響は?

酪酸菌には腸のぜん動運動を促進するはたらきがあるので、便秘の改善が期待できます。

おならは腸内にたまったガスが排出される現象であり、酪酸菌や酪酸はおならに影響を与える直接的な原因にはならないと考えられていますが、酪酸菌が腸内環境を整えることで、おならの悪臭が減る可能性はあります。

また、酪酸自体は強い臭いを持つ物質ですが、おならの悪臭は腸内の悪い菌の影響なので、酪酸の臭いとは関係ありません。